Venasque


 中世の田舎の教会は丘の上にある。外敵の侵入から守るために街が丘の上にあったのだから当然である。Comtat Venaissinに属するこの街は、背後のボークルーズ山系を守護神にして、ボントー山を望む正面は険しい崖に守られている。18世紀初頭にマルセイユを襲ったペストからこの地域を守るための27kmに及んだ小城壁跡が、田園風景に彩を添えている。崖の麓には小修道院がある。修道女が数人集まってひそひそ話をしている。スズムシが鳴いている。プロバンスの観光の波はこの辺りまで浸食して来て、十年前に廃屋だった場所は民宿になり、アトリエが数件店を開け、石畳の道がアスファルトになり、井戸には堅い蓋がしてあった。カナダ人のバックパッカーが数人小修道院への坂を降りて行った。