オーベル・シュール・ロワーズ


 精神に異常をきたしてサン・レミ・ド・プロバンスからこの村に移って自殺するまでの二ヶ月間に残した作品の一つが、この教会の絵だ。荒れ狂った嵐のような青空の下、溶け出しそうに揺れる教会に続く小道を、日除け帽子をかぶった一人の農婦が歩いている。不安と熱情の混ざり合った精神状態を反映しているかのような絵だった。ゴッホがこの教会を描いたのは百十数年前、1890年の初夏。久しぶりに青空の広がった2007年7月の午後、穏やかに佇むその教会の裏手を散歩した。ここから五分も歩くと村の墓地がある。そこには、後を追うように亡くなった弟のテオと彼の小さな墓がある。