パリ郊外
六月だというのに、どうしてこんなに寒いんだ?慌しい一週間だった。先週の日曜日は横浜の元町辺りを古い友人と散歩していた。月曜日にパリに戻ったばかりなのに明後日はマンハッタンのホテル。それで、せめて今日くらいは、赤い薔薇で壁が覆われた家の扉を…
もう四月中旬だというのに、昨晩はフランス北部に大雪が降った。大雪といってもせいぜい二十センチ程度ではあるけれど、この季節には異例のことだ。 雪が降ると、古い友人から久しぶりの便りを受け取った時のように少しわくわくする。急ぎの仕事なんかを終ら…
早朝のパリ郊外、霧に煙るブドウ畑。畦道の向こうから、誰かがやってくる気配がする。
今日久しぶりにボブ・デュランの「北国の少女」(*1)を聴いていて、五年ほど前の冬の旅を思い出した。「夢も凍りそうな寒い日に」(*2)上野駅から上越新幹線に乗った。長い日本出張中、日程の都合でぽっかり一日空きができた。疲れているのに時差で眠れない…
久しぶりに夢を見た。見知らぬ駅に降り立つ。人通りの少ない駅前の商店街をあてもなく歩く。季節は春、或いは秋。知り合いの家を訪ねているような気もするし、バスに乗り換えるために停車場を探しているような気もする。街はずれのビルボードに地図を見つけ…
通勤の途中で車の中から見た夜明け。二十歳の頃には単車に乗っていた。生暖かい車の中と違い、冬の単車は厳しい。晴れた夜明け際、朝露を払いながらシートをまたぐ。キーを差し込み、キックペダルを二三度軽く押しこんだ後、体重を乗せて一気に蹴りを入れる…
久しぶりのゼネストだった。95年のジュッペ政権を崩壊に追い込んだ規模と同じくらいの広範なストライキだったらしいが、今日は小春日和の穏やかな一日だった。目的は「一部の公務員年金特別制度の改変」に対する既得権確保だけれど、組合としても特別制度撤…
今週は夏らしくなって、昨日は蒼い空一面に「わた雲」が広がっていた。正式には「積雲」、フランス語では"cumulus"というらしい。会社を早退して、まだ陽の高い夕方パリに戻った。それから、久しぶりにあても無く街を散歩した。アパートに帰り際、地下鉄の入…
週末、知人の結婚式でブレクール城に泊まった。パリ西方70キロ、ノルマンディー地方の鳥羽口に位置する濠に囲まれた17世紀の城。田園と森林に囲まれて、隠れるように佇んでいた。看板も道標も無い。翌日は、睡蓮を描き続けたモネの城館のあるジベルニーを訪…
精神に異常をきたしてサン・レミ・ド・プロバンスからこの村に移って自殺するまでの二ヶ月間に残した作品の一つが、この教会の絵だ。荒れ狂った嵐のような青空の下、溶け出しそうに揺れる教会に続く小道を、日除け帽子をかぶった一人の農婦が歩いている。不…
パリ北西に位置するベクサン地方は、セルジー・ポントワーズからセーヌ川添いにルーアンまで広がり、フランスの穀倉地帯を形成している。ゴッホ、ボビニィ、ピサロなど多くの印象派の画家がこの地域で暮らし作品を残している。曇り空の下、黄色く染め抜かれ…
セーヌ川沿いの広い庭の奥に、十九世紀の城館が午後の太陽を一杯に浴びてゆったりと佇んでいる。日本は、フローではフランスを凌駕しているが、ストックは遥かに及ばない。
見渡す限りの菜の花畑。どこまで行っても菜の花畑。あの向こうには何があるんだろう。生まれ育った九州では見たこともないはずなのに、なんとなく懐かしい気持ちになる。少女と手を繋いで散歩をした少年の頃を思い出す、はずもないのだが。パリから車で三十…
広大な麦畑の中、石塀で囲まれた墓地。この国では、愛国心と個人主義が同居している。愛国心は保守的にも反逆的にもなりうる。王を追放した不思議な国の田舎の風景。
セルジー・ポントワーズのさらに郊外の村。フランスでは、どんな小さな村にも、出兵して帰ってこなかった人たちの墓碑が必ずある。「フランスの為に死んでいったクールディモンシュの子供たちに」。第一次大戦時にこの村から出征して亡くなった十数人の人た…
暗い冬の一日も終わりに近づいていた。貨物船が妖艶な波を曳いて川下に消えていった。逆光の中、黒々と影のように静まり返る森とその川面が渾然とした空間を創り、じっと見ていると、その中に吸い込まれてしまいそうになる。
それから夜明け頃にうとうとしながら夢の続きをみた。 女の子と歩いている。もしかしたら恋人かもしれない。それが誰だったのか分からない。白い薄手のカーデガンを羽織った彼女は僕の少し前を歩いている。季節は秋?或いは春先、、、。坂を登ってどこかの大…
コクトーの映画「美女と野獣」(La Belle et la Bete)の舞台になった城。今はホテルとレストラン、それに広大な敷地はゴルフ場になっている。こうした歴史的建築物でも、ある程度商売をしないと維持できないのだ。パリ近郊にはこうした城が数知れずあるが、そ…
セーヌ沿いの美しい港町、コンフランの小路。左に曲がると、古い屋敷の尖塔や公園や教会や市の美術館がある。右にはなんにもない。ただ、石塀に挟まれた敷石の細い舗道が緩く登っていた。次に機会があれば、右に曲がってみよう。
元旦の伽藍とした街。パリ市内には一軒家はほとんどないけれど、少し郊外に出るとミニチュアのような街並みに出合う。ムドンの街の丘に登るとパリと郊外が一望の下に見渡せる。今日は曇っていて白茶けていてシニックな風景だった。 右の丘はモンマルトル。そ…
事務所から見た夕暮れ。まるで空が血を流しているようだった。
最近は夜がますます長くなって、会社に着く頃にようやく陽が雲間に現れる。
パリの40km西の郊外にラ・セーヌという名前の小さな町がある。セーヌ川河畔にピトレスクな家が並んでいる。
午後、空港まで子供を送りに行った。置き去りにされていた旅行鞄が、対テロの特殊チームに爆破されて、飛行機は遅れていた。
印象派のちいさな美術館のある丘から望む教会。今ではただの古びた田舎街にしか見えないポントワーズだけれど、かつてはパリの北の要衝だった。ところどころにその面影が垣間見れる。
昼食休みに、事務所から近いポントワーズの丘に登ってみた。パリから30キロほど北上したところに位置する城壁都市。そこから望むオワーズ川。このセーヌの支流を少し下ったところにゴッホの描いたオーベル・シュール・ロワーズの教会と彼の墓がある。