マリニアン通り


 パリは初夏というよりも、もう真夏の陽気。モンテーニュ大通りとシャンゼリゼ大通りの間のマリニアン通りの花屋の前で人を待つ。紫陽花がきれい。中目黒に住んでいた時、電車を乗り継いで北鎌倉に紫陽花を見に行った。梅雨の頃だったと思うから、六月の後半かもしれない。徹夜で酒を飲んだ後、東横線の始発電車で菊名迄行って、そこで東海道線に乗り換えて大船辺りで横須賀線に乗り換えたはずだけど、よく覚えていないな。仲間が何人もいた。雨が降っていた。当時お付き合い頂いていた女性もいた。女性というより少女だった。俺だって少年だった。大船のがらんとした駅で珈琲屋に入った。其の時、少し離れて座った少女の横顔を眺めていた記憶があるから、まだお付き合い頂く前だったかもしれない。北鎌倉を傘もささずに散歩した。雨に煙る紫陽花がきれいだった。誰も覚えてないだろうな。俺もその少女以外誰がいたか覚えていないや。いや、もしかしたら鎌倉まで行かなかったのかもしれない。幾つかの場面が混ざっているのかもしれない。