アンドレ・シトロエン公園


久しぶりに夢を見た。

 私は、昔住んでいた私鉄沿線の街に戻ってきたばかりだ。公衆電話の横で、改札口が吐き出す乗客の中に彼女を見つける。それから、一緒に近くの公園までぶらぶらと歩く。そこでは集会が催されていて、誰かが遠くのステージで演説をしているけれど、内容はよく聞き取れない。たくさんの人達が芝生に座って声も出さずに話をしている。我々は肩を寄せ合うようにベンチに腰掛ける。彼女の指先が僕の肘のうぶげを軽くなで、組んだ腕にTシャツの下の彼女の胸の柔らかいふくらみを感じる。初夏の青い空と白い雲の中を、ツバメが翻る。その翼に太陽の光が反射してきらきらと光る。頬を柔らかい風がなでる。演説の声が街の騒音に混ざり、じっと耳を澄ましていると遠くの塔から鐘の音が聞こえてくるような気がする。昔は、夜行列車の狭く固い座席に座り、傷ついた獣が庇い合うように互いの身体を寄せ合いながら、旅行をしたものだった。もしかしたら、それは、遠い記憶がいつか見た映画の一場面を模倣しただけなのかもしれない。公園では演説がいつのまにかコンサートに代わっていた。ベンチや芝生に座った人達は相変わらずの無関心さで、無言の会話を続けている。週末の午後の緩やかな時間は、永遠に止まったまま動きそうもないように感じられた。

 でも、やがて陽は西に傾き、建物が芝生の上に長い影を落とし、人々は家路に着く。私はズボンのすそに付いた埃を軽く叩きながら立ち上がった。それから、西洋人がそうするように彼女の両頬に軽いキスをして、さよならと言った。