オージバルの夜明け


 通勤の途中で車の中から見た夜明け。二十歳の頃には単車に乗っていた。生暖かい車の中と違い、冬の単車は厳しい。晴れた夜明け際、朝露を払いながらシートをまたぐ。キーを差し込み、キックペダルを二三度軽く押しこんだ後、体重を乗せて一気に蹴りを入れる。二気筒のけたたましいエンジン音とマフラーから吹き出す爆煙がしじまを震わす。油の尖った匂いが鼻を突く。背中にしがみつく少女の腕に力が入る。ボブ・デュランの「ハリケーン」が動脈を駆け巡る。