カンヌ


 もう二十年、ほぼ毎年、年に二度、仕事でカンヌに来る。海から離れた丘の上のホテルは、十月ともなるとバカンス客もすっかりいなくなり、なんとなく侘しさを漂わせている。遅めの朝食を済まして部屋に戻り、テラスに出て下を覗くと、来年の五月までは使うこともないプールの清掃をしている人がいた。ずっと遠く、入り江に停泊しているクルーザーが逆光にきらめく波間に浮かんでいる。昨夜、久しぶりに夢を見た。盆地の中の舗装されていない道路で車を停めて、白く雪化粧された山々をぼんやり眺めながら、コートの襟を立ててあてもなく歩いていた。風が吹くと雪が舞って蒼い空にきらきらと光る。麦を刈り取った後の畑がずっと続いている。その畑も白く染まっている。車はもうずっと遠く、白い畑の脇にこびりついた黒いハエの死骸ように小さく汚く見える。とぼとぼと歩き続けた。もしかしたら、あてはあったのかもしれない。